【特別講座】日経テレコン21で始める信用リスクマネージメント

【第3章】経理、営業マンなど、実務における与信管理のイロハ 提供:リスクモンスター株式会社 データ工場工場長代理 三木真志氏

2009/6/19

6. 商流の分析

取引の安全を図るには、取引先の分析だけでは十分とは言えません。仕入先から販売先の販売先なども並行して調べていく必要があります。そして、仕入先への支払期間と販売先からの回収期間がうまく整合性がとれているかなど、商売全体の流れを把握したうえで分析を行い、商売の全体像(商流)を把握していくことが大切です。以下では、商流把握におけるリスクが発生しやすいポイントをいくつか挙げます。

回収サイトの妥当性

商流の把握次に決済条件について確認します。取引を行う場合には、決済条件の交渉がつきものです。決済条件は、業界慣行や販売先との力関係により、必ずしも思い通りにならないことも多くあります。しかし、決済条件は一度設定するとその変更は困難です。よく確認してから設定するようにしましょう。

例えば、「月末締め翌月末起算90日期日手形支払」という条件で取引をする場合、その月に販売した商品について月末で締め、翌月末にその日から90日後に現金化される手形を振り出して支払うということを意味します。したがって、販売した商品の代金が現金回収されるまでの回収サイトは、締めが到来していない当月分を含めて5ヶ月となります。したがって、毎月500万円販売すると、販売先に500万円×5ヶ月=2,500万円の与信を行うこととなります。

このように取引においては、まずこの回収サイトが業界慣行と照らして妥当性のあるものかを確かめる必要があります。また、たとえそれが妥当であっても、実際に販売先が自社商品をどの程度在庫を持って、それを販売した場合にどの程度の期間で回収するのかといった決済条件等も確認しておく必要があります。

この事例の場合、X氏の会社が自社に支払う5ヶ月のサイトより、X氏の会社が販売先からの現金回収する期間が短い場合、X氏は支払よりも先行して現金を回収することとなります。X氏の会社には資金がプールされる、いわゆる金融を行った形となり、万が一その資金が他の取引に流用された場合、自社商品の代金回収に支障が出る恐れもあります。

業界慣行に引きずられることなく、最低でも販売した商品が現金化されるタイミングで回収できるようにしておく必要があります。

運転資金の負担

決済条件を設定する際に気をつけておくべきことは、仕入先への支払条件です。こちらは商品を仕入れて販売する商社や卸売業などに特有のこととも言えますが、前の項目で挙げた取引先とその販売先との決済条件を確認することと同様に、自社も仕入先と販売先との決済条件にどの程度のズレがあるのかを確認することが必要です。

支払の方が入金よりも先行する場合、自社が販売先の代わりに資金を立て替えるような形になります。この立て替えに必要な資金を「運転資金」といいます。立て替える期間が長いほど運転資金を調達する自社の負担が増えます。運転資金は、自己資金でまかなえれば問題ありませんが、借入で運転資金を調達する場合は、金利負担も加味した利益を確保することが重要です。金利が上昇局面に入ってくると、取引自体の利益率が悪くなり、取引すれば損が出るということになる可能性すらあります。

回収方法-手形か現金か

販売先から代金を約束手形で回収すると、保管管理に事務コストが発生し、また取立にかかる銀行手数料も安くありません。したがって、近年は販売先との決済条件を変更し、手形での回収をやめて、支払期日に現金振込で支払ってもらう期日現金決済に移行する傾向があります。

しかし、手形回収は、確かに面倒な点が多いかもしれませんが、債権管理・回収の観点からは非常に有効な手段であるといえます。期日現金決済の場合、販売先が資金繰りに余裕があるときは問題ありませんが、資金繰りが逼迫してくると、自社の了解なしに期日より遅らせて支払ってくることがあります。また販売先が商品にクレームをつけて支払を拒否するようなこともありえます。

このような事態を回避し、債権回収をスムーズに行うためには、取引先から予め支払期日に合わせた約束手形を取得しておくことが良策です。販売先が自社に対して約束手形を振り出すと、その支払期日に必ず決済しなければならず、資金不足や商品クレームなどを理由に、その支払を拒絶することはできません。なぜなら、もしその期日に支払ができなければ、振り出した手形が不渡りとなって信用不安が広がり、ひいては倒産という事態を招いてしまうからです。

したがって、手形の期日までに何とかして現金を調達し、支払をしなければならないというプレッシャーを販売先にかけることになるので、回収の促進につながります。また、債権の存在を立証することが簡単であり、さらには他に裏書譲渡することができたり、支払期日を待つことなく割り引いて換金することも期待できます。

実際の動きをフォローする

決済条件を把握する際、販売先だけでなくその先の販売先や仕入先まで確認をするべきといいましたが、販売先が販売した商品をどのように使うのか、またはどこに売るのか、エンドユーザーは誰かといった用途や販路を確認し、取引の全体像を掴むことは非常に重要です。また売買取引で、商品受渡しについてトラブルを避けるためには、商品受領書をよく確認し、在庫の現物も定期的に確認しておくことが必要です。

その確認を怠ると、商品が存在しない「架空取引」に遭ったり、商品は存在してもエンドユーザーがおらず、当事者間でぐるぐる商品が回る「環状(循環)取引」に巻き込まれる恐れがあります。以下に挙げる取引は、事故につながりやすく、極力回避していくことが望ましいのは言うまでもありません。

介入取引

介入取引の例介入取引とは、仕入先と販売先との間で、必要な商品・金額・決済条件等が予め決定されており、仕入先または販売先の与信リスクの回避や資金事情等の理由により、自社が介入する形で成立する取引をいいます。既に取引条件が決まっており、どの企業を介入させて取引を行うかだけの状態となっており、営業努力をしなくても売上、利益の確保ができることから話に乗りやすい取引形態でもあります。

しかし、仕入先や仲介者が共謀して、書面取引のみで、商品の現物確認や受渡立会が行われないなどの企業の盲点を突いて、資金を引き出そうとする意図で話が持ち込まれることがあるので、注意が必要です。

環状(循環)取引

環状(循環)取引の例この取引は介入取引の一形態であり、何も知らない企業から資金を引出すことを目的に、取引に介入させた後、いずれかの時点で商品が元の持主(自社の仕入先)に戻る取引です。自社の仕入先と販売先が結託して、自社にはあたかも、正常な取引と見せ掛けているものの、その実態は仕入先と販売先とが直接或いは間接的に裏で繋がっている取引です。

この取引の事実関係が判明するのは事故直前或いは事故発生後が殆どであり、しかも商品が伴っていない(いわゆる架空取引)場合も多く、事故発生時には自社が多額の損失を被ることが少なくないため、行ってはならない取引の一つです。

その他避けるべき取引

その他避けるべき取引としては、販売先の与信限度が足りない場合に第三者を経由して取引を行う迂回(限度回避)取引、自社の事業とは殆ど関わりのない畑違いの商品を取り扱う異業種取引、遠方の企業と取引を行う遠隔地取引などが挙げられます。

今回の事例の場合、あなたは商品Aについては熟知しているでしょうが、商品Bについては関連知識がないとのことで、一種の異業種取引に当たります。商品Bに関する市場環境、競合状況、季節性など市場の特性を掴むことはもちろんのこと、関連の法規制や業界団体などについても押さえておくべきでしょう。


次は・・  社内承認を取りましょう!

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第1章 最新倒産事例研究
提供:リスクモンスター株式会社
株式会社金融工学研究所
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1. オリエンタル白石 編
2. 小杉産業 編
3. M加工(仮称) 編
4. ゲートウェイ21 編
5. ニチモ 編
6. N株式会社(仮称) 編
第2章 社内における与信管理のルールづくり
協力:AGS株式会社
1. 基本方針の策定と自社リスクの洗い出し
2. リスク許容範囲の設定と取引先の評価
3. 与信限度額の設定と運用ルールの作成
4. 社内共有と運用開始、メンテナンス
第3章 経理、営業マンなど、実務における与信管理のイロハ
提供:リスクモンスター株式会社
1. 契約相手は誰か?
2. 初期判断の強い味方「商業登記簿」!
3. その他取引先の情報収集をしよう!
4. 定量(財務)分析をしましょう!
5. 定性分析によって分析を補いましょう!
6. 商流の分析
7. 社内承認を取りましょう!
8. 契約を締結する
9. 継続的に管理しましょう!
10. まとめ ― 与信管理強化は販売拡大に結びつく
第4章 信用リスクモデルとは?
提供:株式会社金融工学研究所
1. 信用リスク評価、モデル、倒産確率
2. リスク要因と実績倒産率の傾向について
3. モデルの効用・限界
第5章 これからの信用リスクマネジメント
1. リスクモンスター株式会社
2. AGS株式会社
3.株式会社金融工学研究所

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