第2回のテーマは、リスク要因と実績倒産率の傾向です。
リスク要因の解析は、モデルを構築する際や評価結果を解釈する際に非常に重要となります。
ここでは、実際のデータに基づいた、リスク要因ごとの実績倒産率の傾向について解説します。あなたが取引先のリスク要因分析を行う際の参考にしてください。
この取引先の評価は低いけど、原因は何だろう?という疑問は、審査等を担当されている方なら一度は持たれたことがあるかと思います。評価が悪いのには(または良いのには)、理由があります。その理由(リスク要因)を把握しておくことによって、企業の現時点の信用力に関する洞察力を高めるだけでなく、将来の信用力に関する予見力も身についてくると思います。
それでは、リスク要因についていくつか見ていきましょう。
まずは、下の二つの図をご覧ください
上方の図は、売上高と倒産率の関係です。
売上高が0億円に近い企業の倒産率は低く、0億円から3億円に上昇する過程で倒産率が急激に上昇して、以降売上高が高くなるにつれて徐々に倒産率が減少していきます。
一方、下方の図は従業員数と倒産率の関係です。
売上高の時と同様に、従業員数0人から20人に増加する過程で倒産率が急激に上昇して、以降徐々に減少していく特徴を確認することができます。
以上から企業の規模が個人事業主や大企業のような両極端の企業よりも、その間の企業の倒産率のほうが高いといえます。
次に地域性について解説します。
金融工学研究所企業リスク情報では、地域別のリスク情報を提供しています。その特徴として、大都市の景況感が悪いという点があります。この点については、違和感を持つ方もいるかもしれません。
上図をご覧ください。左の開業率と右の廃業率ともに東京・大阪などの大都市は濃い色で表示され、開業率と廃業率がともに高いことが分かります。
これは地方の商店街と大都市圏の商店街の店の入れ替わりを比較すると、大都市圏の商店街の方が店の入れ替わりが早いという感覚と整合的かと思います。
当リスク情報がフォーカスしているのは信用リスクです。第1回で解説したとおり、「信用リスクを評価する」ことは、債務が約束どおりに履行されない(=倒産する)可能性を評価することです。
よって、倒産(廃業)の側面のみをみることになり、廃業率の色が濃い大都市の景況感が悪い評価となります。活況(開業)も考慮した景況感とは異なりますのでご注意ください。
最後に、一般的に健全性指標として使われることの多い、借入金依存度(負債・資本合計に対する有利子負債の割合)と倒産率の関係をみてみます。
右図をご覧ください。借入金依存度が高くなるほど、倒産率が高くなることを確認できます。
このように倒産率に対してはっきりした傾向をもつ指標は、倒産を説明する指標として採用されることが多くなります。
一般的に定量モデルで使われるのは財務(決算書)データです。
そのデータから規模、収益性、成長性、健全性、流動性の水準を求めて、財務の視点から企業を評価します。
その他の視点として、財務データからは得ることができない非財務情報(一般的には定性情報と呼ばれています)や事業環境を分析する視点があります。
非財務については、株主や取引先との関係、財務諸表等の情報開示の程度を利用します。
財務と非財務については、企業特有の情報ですが、企業自身ではコントロールできない要因によって業績が影響されることもあります。それをリスク評価に考慮するために事業環境の視点も必要となります。当リスク情報は、企業の属する地域や業種の景況感も評価に影響を与える仕組みとなっています。
最終回は、倒産事例を通して、モデルの効用・限界について解説します。