取引を行う上では、販売先自体の分析だけでなく、取引の全体像を理解し、それを評価する必要があります。そこで前回は、取引が始まる経緯を押さえ、さらに回収サイトや回収方法といった取引条件、そして仕入先や販売先の販売先(エンドユーザー)といった商流の全体像までを確認するためのポイントについて述べました。
販売先と取引自体の確認・分析が終わったところで、次は必要な社内承認と契約締結について見ていきたいと思います。
与信限度制度とは
与信限度制度とは、売掛債権等の与信についての上限額を販売先ごとに設定して、会社が過度の与信リスクを負わないようにする制度です。
営業部門は、限度を超えないように取引を行い、管理部門は超過がないかをチェックすることで管理します。この限度は、収益機会と与信リスク、すなわち営業部門VS.管理部門の調整弁ということができます。例えば、管理部門として取引不可の取引先でも、営業政策上どうしても取引を行わなければならないときには与信限度を絞って取引を行うことで調整を行うなどの処置が可能となります。
与信限度は必要かつ安全な範囲内で
販売先に対する与信限度をいくらに設定するかということですが、その設定に当たっては、「必要かつ安全な範囲内」という原則を守らなければなりません。
まずは、必要な範囲ということでは、月間販売数量に単価を掛けて月間販売額を算出し、それに回収サイトを掛けることで平均の売掛債権残高を算出して計算します。与信限度は季節ごとのバラツキを考えて、今後の債権残の推移を予想し、多少余裕を見て設定するとよいでしょう。
回収サイトは、受取手形のサイトだけではなく、売掛期間を考慮に入れる必要があります。したがって、厳密に言うと次のようになります。
(月間売上見込み額×売掛期間月数) + (月間売上見込み額×手形等による回収割合※×手形期間月数)
「手形等による回収割合 」とは、売掛債権が現金および手形等(期日指定支払・一括支払を含む)により回収される場合において、その回収額のうち手形等により回収する割合のことをいいます。いわゆる「半金半手」といった半分を現金で、あとの半分を手形で回収するような条件で取引を行う場合は、50%を乗じることとなります。
月末締め翌月末起算90日の手形回収という条件であれば、回収サイトは売掛期間が2ヶ月で手形期間が3ヶ月の合計5ヶ月となります。したがって、必要な与信限度は、月間売上見込み額500万円×回収サイト5ヶ月=2,500万円となり、多少の変動を考慮して2,500~3,000万円で設定します。
次に安全な範囲ということですが、これは自社の財務内容や取引先に対するシェアに基づいて設定されるものとなります。与信管理ルールでは、取引先に信用度のランク(格付または点数)を設定し、ランクごとに与信限度や売込シェアの目安を決めておくのが一般的です。
ここで注意をするべきことは、いくら会社が定める安全な範囲に入っているからといって、実際の取引に即していない与信限度を設定しないことが重要です。販売先に対する売上が通常の2倍、3倍となっても与信限度を超過せず、変調に気付くことができない可能性があります。売上が増加している原因は、他の取引先が撤退を開始しているからということもあり、危険な状態となっている債権をみすみすさらに増加させてしまうこともありえます。
必ず事前相談・協議を
与信限度の社内承認プロセスは、右表で記載の通り、営業部門が申請を行い、管理部門で審議を行い、権限を与えられた決裁者が決裁するといった形で行われるのが一般的です。金額等に応じて、審議を行うか否か、決裁をどのレベル(部長か役員か社長かなど)で行うかを社内規程で定めています。この事例でも社内規程を確認し、販売先分析で格付を確認し、2,500~3,000万円の与信限度設定に関する決裁権限者、審議経路などを確認しておく必要があります。
また申請を上げる前には、上長および管理部門に事前相談をし、取引を進める過程で気付いた点、懸念事項等がある場合は報告します。
与信限度申請書の起票
事前相談でOKが出れば、会社指定の与信限度申請書に必要事項を記載して申請します。営業部門は、その中で、資本構成、主要取引先など販売先の状態の説明だけでなく、申請する与信限度はもちろんのこと、商品名・取引経路・決済条件・販売予定額・取引開始の経緯・基本契約の有無・取得担保・営業方針を記載します。
また、審議を行う管理部門および決裁を行う決裁者が判断しやすいよう、手助けとなる資料を添付します。具体的には販売先の決算書、信用調書、担保・保証内容などが挙げられます。
与信限度申請書は、取引をする際のプレゼン資料と位置づけて、しっかり記載するようにしましょう。後で振り返って販売先との取引の歴史が分かる取引の記録資料を作成しているのだという心構えを持って書くと良いでしょう。
与信限度申請書の提出
営業部門の担当者は、与信限度申請書を上長に提出します。その後、書類は社内規程に基づき回付され、管理部門による審議、決裁者による決裁が行われます。
一般的には、与信限度は何時いかなる場合でも超過してはいけないものですので、営業担当者は与信限度申請書を提出しても、与信限度が決裁され、手続きが完了するまで取引を開始してはいけません。
なお、決裁者が取引の承認に条件を課した場合は、それが実行できなければ取引を進められません。その場合、販売先と再度条件面等で交渉を行う必要があります。