企業情報の中には、単純に数値で表すことができない情報があります。例えば、経営者の資質や大株主、会社の技術力、販売体制などが挙げられます。これらを企業の「定性情報」と言います。定量情報に加えて、定性情報を分析していくことでより詳細な分析が可能となります。
確かに決算書による財務分析によって、資金繰りに窮し、事業継続が困難になる状態に陥りつつある、または将来陥る可能性が高い企業はある程度見極めが可能です。
しかし、財務分析だけでは、取引先の判断はできません。なぜなら、取引関係において弱い立場にある場合は決算書を直接相手から入手することは困難でしょうし、中小企業の場合は、非公開の会社も多く、調査会社等からも決算書を手に入れられないケースが多いからです。
またたとえ手に入れられたとしても、決算を粉飾している場合もあり、必ずしもその企業の実態を正しく分析できないことも考えられます。さらに、決算書を入手した時点でその情報は、既に過去の情報となっています。
したがって、数字に表れない定性分析を行うことによって、在庫が実際よりも多く計上されている、実態の分からない子会社があり貸付が不良化している可能性があるなど、決算書の数字におかしな点があることも見えてきます。定性分析を行うことによって分析の補完ができるのです。定性分析には、たくさんのポイントがありますが、ここでは代表的なものを挙げます。
代表者や役員がどのような生活をしているのか、どんな人脈、交際範囲があるのかを把握すべきです。会社規模に比べ、不相応に派手な生活をしていたり、交際費を使いすぎていたり、多額の報酬を得ていたり、会社から個人的な借入をしていたりと、乱脈経営をしている場合は、要注意であるといえます。
なお、取引先が中小オーナー企業の場合は、社長個人の信用力も重要となります。この場合、人物もさることながら、資産を保有していることも大きな要素で、まったく資産がないというのは信用面でマイナスとなります。
中小企業の場合は、代表者の動向が重要であるため、時には上司である営業部長や課長にも接してもらい、相手の志向や考え方をよく見ておくことが必要です。
社長だけでなく、出資者(株主)、役員がどんな人物かもよく調べておくべきです。経歴を詐称していたり、過去に何度も倒産歴があったり、詐欺的な倒産整理に関わっている場合は要注意です。
一方、企業の経営者だけでなく、従業員を含めて全員一丸となって仕事に取り組んでいるかどうか、労使関係がうまくいっているかどうかも重要です。
従業員側が常に経営者側と労働条件で折り合いが悪く、頻繁にストライキをしている取引先は、経営状態も悪いことが多いです。取引先の信用度もさることながら、ストライキをしていると商品の入出荷や生産にも大きな影響がでるので要注意です。
取引先のメインバンクがどこで、どんな取引をしているのかは、与信をするうえで重要です。
メインバンクが大手銀行であれば、必ずしもよいわけでなく、長期的な良好な関係が築けているかがポイントとなります。また取引銀行の数が多いのは多行取引といって、どこも大きな与信をしていない状態といえ、良い状態とは言えません。
また、主要取引先がどこで、どんな取引をしているかも、重要なポイントになります。金融機関の場合と異なり、主要取引先はたくさんあったほうがよいですが、一部の主要取引先に依存しているような場合は、その取引先の動向がポイントとなります。
なお、金融機関は取引先の経営内容を第三者に開示しない守秘義務を負っているので、金融機関からはなかなか詳しい情報は入ってきません。だからこそ取引先から金融機関との関係についてのコメントが聞ければ、非常に貴重な情報となります。