最終回のテーマは、モデルの効用と限界です。
モデルは採用されたリスク要因で出来るだけ過去の倒産事例を説明できるように構築します。
したがって、将来の倒産事例予測についても、一定の有効性は期待できます。ただし、信用リスクモデルは、対象とする事象が自然現象ではなく、倒産という人為的な現象ということもあり、残念ながら企業の実際の状況がモデル通りになるとは限りません。ここでは、モデルが有効に働いた事例とそうでなかった事例を紹介します。
モデルは信用力を評価するにあたり、有効なツールでありますが、万能ではありません。したがって、モデルの限界を認識して、注意して使うことが重要です。
そのことをこの回で少しでも感じていただければと思います。
美少年酒造(株)は、2009年4月16日に民事再生手続き開始を申し立て、17日に監督命令を受けました。
当企業の評価は、倒産までの過去2年間にわたって最下位のC10でした。この企業が属する業種は製造業でしたが、その製造業の平均評価(C6)と比較して、4段階低い水準でした。
特に財務項目の収益性、成長性、健全性の水準が低かったことがその低評価につながったと考えられます。
その他、景況感が相対的に良くない地域に属していることや業種内での評価が低かったことなどが要因として考えられます。
以上から、当企業については信用力が悪化していることを事前に把握できていたことを確認できます。
広島ガス開発は、2009年3月30日、広島地裁へ民事再生手続開始を申し立てました。
当企業は、最高位の次に良いC2の評価で、業種平均(C6)と比較して4段階良い状態でした。財務、非財務、事業環境の視点でみても、いずれも業種平均よりも良い得点を得ていました。倒産予知という意味で、C2という評価は妥当とはいえない結果でした。
実は、広島ガス(東証2部)の連結子会社である当企業は2009年2月20日に広島国税局の税務調査を受け、同じく広島ガス連結子会社の広島ガスリビング(株)との間で循環取引が行われていた事が判明していました。循環取引によって売上高を操作することができます。
操作された(粉飾された)決算書を用いて行った評価結果は、当然ながら実態を正しく捉えているとはいえません。正しい決算書情報の利用が、適切なモデル評価の前提であることをご注意ください。
ただし、あなたの取引先が正しく決算書を作成しているかどうかを見極めることは困難かもしれません。この意味からもモデル評価を利用する際は、幅を持って解釈することが必要となってきます。
第1回でも申し上げたとおり、モデルは客観性、効率性などが評価され利用が広がっています。
ただ、モデルは過去の倒産事例に基づいて構築されますので、構築した後、倒産事由の変化などを理由として、時間の経過とともに精度が徐々に低下していくのが一般的な傾向です。また、会計制度等が変わって、それに対応する必要がでてくるかもしれません。さらに、モデル構築に関する技術革新があるかもしれません。それらに対処するために、モデルは定期的に(または随時)見直される必要があります。
そのようにメンテナンスされているモデルは今後も一定の精度を期待できるかと思います。
しかし、一方で限界もあります。事例紹介2で紹介した粉飾決算を行っていた企業や決算情報が古い企業など、新鮮でかつ正しい決算書を利用できない場合は、どんなに精緻なモデルを使ったところで企業の適切な評価をすることは困難です。
そういうこともあり、やはりモデルは万能ではないと言わざるを得ません。
しかし、モデルは適切な評価を行えるという根拠を過去データによって示された有効なツールであることは変わらないと思います。モデルの限界を理解した上で、今後もあなたの審査業務の効率化のためにモデル(またはそれによる評価結果)を最大限ご活用いただければと思います。