日経テレコン21 コンテンツ紹介・インタビュー

Q. ライバル誌や競合する組織等はあるのですか。

  ライバル雑誌と言えるものは特に見当たりません。労働問題に関わる他の組織は、恐らく既成のデータ、出来上がった政府データを使っているのでしょうが、私どもはオリジナル・データをアンケート調査などで収集・作成し、提供しています。労働政策の企画・立案に資する必要な素材を現場なり、データから抽出・提供するという姿勢です。そういう意味では、政策提言を主な目的とするシンクタンクとも性格が異なっています。

Q. 生データとは、どういう意味ですか?

  単なるアンケート調査ではなく、ヒアリング調査も平行して実施し、現実を掘り下げる努力をしています。現在、力を入れて取り組んでいるのは派遣社員に対するヒアリング調査です。彼らの職業キャリアを一人に約3時間かけて聞いています。ヒアリングを通じて、いろんな問題が浮かび上がってきています。派遣労働とひとくくりにされがちですが、一人一人の職業キャリアにもその問題が潜んでいます。今年度中にまとめて報告しようとしているところです。現在大きな問題になっている非正規問題に焦点を当てて、パート、契約社員、派遣社員等いろんな切り口で取り組んでいるところです。

Q. どんな職業キャリア上の問題が浮かび上がりつつあるのでしょうか。

  派遣について言えば、最初に就職したところ、つまり「初職で失敗する」ことが、次の転職に当たって大きく影響している傾向があることです。仕事が合わない、また人間関係がうまくいかない、ということがあり、社会人としてのスタート時点でつまずいた人たちが、派遣に流れるパターンが多いんですね。いったん非正規社員になってしまうと「這い上がれない」現実、転々としてしまう傾向があります。プロフェッショナルなものが身に付いていない以上、職場を転々とせざるを得ない。そういうパターンがあります。

  もう一つの問題もあります。まだはっきり断言できる段階にはありませんが、初職失敗するケース以外でも、メンタル・ヘルス上の問題が大きくなってきています。正社員として働いていた時にメンタル・ヘルスの問題を抱え退職し、再就職しようとすると、派遣という形態になりがちです。この問題も目をそむけるわけにはいかなくなってきています。

Q. そういう意味では本当に単純に労働の問題だけなのか、というところが残るわけですね。

  いずれにしても、初職のところが大きい。最初の職場での「人との出会い」が大きい要素になっている。いい先輩に恵まれると、一緒に働いている人の姿を見て、仕事というのはこういうものなのかという納得感・充実感をもてた人はそのままキャリアを伸ばすことができるが、そこで挫折すると、どこに行っても同じだという気持ちになってしまう可能性があるわけです。

Q. 将来の労働力不足が懸念される中、欧米型の若者の高失業率問題、格差問題等どうご覧になっていますか。

  1990年代初めに「フリーター100人インタビュー」というものを実施しました。冒頭に紹介したものですが、「フリーター」という大変な問題があるんだ、ということが世に知られるようになりました。高校では職業選択の際、学校による紹介システムというのがあるのですが、バブル経済の崩壊でこのシステムがうまく動かなくなった。特に東京都内の普通科でフリーターの発生率が高いというのを発見しました。バブルが崩壊したとはいえ、当時はまだ仕事はたくさんありましたのでパート、アルバイトで食っていける状況がありました。それまでは就職しない高卒者の地域差も十分はっきりわからない状況でしたが、首都圏の普通科の卒業生に多いことを見つけたのです。こういうことは個別にヒアリングをしていかないとなかなか発見できません。当時の世の中の受け止め方としては「ブラブラしている若者が悪いんだ。自己責任だ」で終わっていましたが、今や社会的な問題で、政府、自治体あげてサポートしないと、彼らが生涯浮かび上がれないという、深刻な状況が浮かび上がっています。昨秋のリーマン・ショック以降、「第2の就職氷河期」とも言われており、前回と同じ過ちを繰り返せばもっと大変なことになります。

Q. 自前主義とは。

  研究プロジェクトを背景に作っている雑誌という性格がありますから、実際にその研究に携わる内部の研究員らが記事を書く自前主義でやっています。

Q. 少子高齢化による労働力不足に対応するため、外国人労働者1000万人受け入れなどの議論がありますが、今後の日本の労働市場どういう方向にもっていくべきとお考えですか。

  実は私どもでは、年金計算の時の基礎データとなる労働力需給見通しをやっています。今後数年間の労働力人口のシミュレーションをしています。その結果、いろんな政策を発動して、女性や高齢者、若者の活用を進め、ミスマッチをなくしていけば、それほど労働力は減らずに日本の成長は維持できる、というシミュレーション結果を出しています。そう意味では、外国人労働者に頼らずとも成長できるという見通しです。したがって、外国人労働者の受け入れは、専門性の高い人は必要だが、いわゆる単純労働者は不要だろうと見ています。少なくとも、未活用の潜在労働力層が日本にはあるわけですから、その問題の解決が先決で、外国人労働者の受け入れ問題はその先にある問題だと思います。